おかやま住宅工房
中川 大
NAKAGAWA Futoshi
中川
丹下さんの手仕事から刺激をもらうと、配り手としてみんなに「これ、見て見て」と伝えたい気持ちが湧いてきますよね。
山本
はい、僕もその気持ちを抑えつつですけど、ひっそりと店に置いておくんです。すると気づく人は気づいてくれて、「あれ、なんですか」と聞いて来られるんです。このあいだも入り口の所にある球体を見たお客さんが「あの丸いの、何ですか?」と入って来られて、説明したら「ああ、そうですか」とだけ言って帰って行かれましたけど(笑)。融民藝店に来てくれる人の間では、みんなが気になるものになっているのではないかと思いますね。
中川
いずれは球体張り子にも値段を付けることになるんですよね?
山本
本当にいろいろ作って来てくださるんですけど、最初は、売るつもりで作っていないとおっしゃるんです。それで、発表する場があって販売もできたらいいですねという話から、展示会を開く方向で進めています。丹下さんは一ついくらで売るというより、自分が考えているものを作るというのが最初です。継続して作っていただけるように話し合っていきたいですね。
中川
まさに新しい何かが生まれてくる過程という感じですよね。
山本
僕が経験したことのない感覚を丹下さんが教えてくださったなあと思いますね。
中川
創作のプロセスを見てもらうのは、配り手を信用しないとできないことだと思いますよ。さっき言われていた、一緒にうどんを食べに行ったのが面接だったのかもしれないけど(笑)。丹下さんが「山本さんなら大丈夫だと思った」と言われていたのがよくわかるんです。以前山本さんが勤めていらっしゃった『くらしのギャラリー』に何度か買いに行ったとき、山本さんは作り手さんや器のことをきっちり説明してくださるんです。「この人から説明してもらって買いたい」と思いましたもん。手仕事の背景をお聞きすると、やはり手に入れたくなるということが多々ありました。
お客さんからすると、店だと手にとって質感とか色合いが確認できますが、オンライン販売では確認できないわけで、そのあたりはいかがですか。
お客さんからすると、店だと手にとって質感とか色合いが確認できますが、オンライン販売では確認できないわけで、そのあたりはいかがですか。
山本
ベストはやはり手に取っていただきたいです。質量は写真では伝わりにくいですが、極力店で手にとった感覚に近づけたいので、僕だったら器のここは見るなという部分は全部写真に撮って、疑問なく買っていただけるようにしています。
中川
お店のサイトで紹介されている写真が素晴らしいです。写真だけでも十分良さが伝わるので、最後に背中を押してもらうためにお店に足を運びたくなる。とにかく写真を見てほしいです。プロのカメラマンだったという山本さんだからできる仕事ですよ。
山本
光沢感とか、貫入の雰囲気とかは伝えたいですよね。
撮影:山本向意
中川
丹下さんが作った張り子も、伝えたいことがしっかり写っていて、作り手をフォローしている感じの写真なんですよ。ただ自分の好きなように撮っているのではなく、作り手の思いも伝えて、また、どんな人に届けたいかという思いも感じられます。
山本
僕は感性的にこれはカッコいいか、悪いかというふうには撮っていないんです。「球体シリーズ」の写真も影がはっきり出ているのですが、直線的な光じゃないとあの質感は出ないなとか。真上から撮っていますが、フラットな光だと立体感が出ないから、影を多めに付けたら球体自体の大きさがイメージできるなとか、考えながら撮っています。
写真の仕事をしていて、「あとはカメラマンさんの感性にお任せします」と言われると困るんですよ。僕は感性がないと思っているので、理論立てがないと撮れないんです。「この器のここを見せたいんです」「じゃあ、どう撮りましょうか」だったら撮れるので、お店にあるものを「こんなふうに伝えたい」と思って撮るのは自分に合っていると思います。
写真の仕事をしていて、「あとはカメラマンさんの感性にお任せします」と言われると困るんですよ。僕は感性がないと思っているので、理論立てがないと撮れないんです。「この器のここを見せたいんです」「じゃあ、どう撮りましょうか」だったら撮れるので、お店にあるものを「こんなふうに伝えたい」と思って撮るのは自分に合っていると思います。
撮影:山本向意
中川
オンライン販売というと軽い感じがしますが、山本さんの写真は「こう伝えたい」という意思がすごくわかるんです。作り手の思いと、山本さんの伝えたいという気持ちが合わさった写真だから、丹下さんも信頼されているんだと思います。新しい形のオンライン販売というのでしょうか。
山本
中には、わからないのでお任せしますというお客様もいらっしゃるのですが、極力こちらから器の特徴は伝えたいですね。写真が多くなるかもしれませんが。
中川
山本さんの写真は、誠実さが伝わるんです。
山本
すごく褒めていただいて(笑)。「今日湯呑を10個撮影しなきゃ」というのと「これ一つを何とか伝わるように」というのとでは目的が違うので、写真も違ってきますよね。
撮影:山本向意
中川
丹下さんも試行錯誤しながら活動されているし、いろいろな作り手さんがいらっしゃるというのは、店を引き継がれて余計に感じるんじゃないですか?
山本
そうですね。前は会社組織だったので、百貨店さんとのお付き合いとか、1日に何個オンラインに出せるかといったタスク的な部分が多々ありました。今はじっくりと考えながら、僕がいっぱいいっぱいでも作り手さんが刺激をくださって助けられることもあり、融民藝店を引き継いでよかったなと思いますね。
中川
弊社で家を建てる方の中にも民藝が好きな方がいらっしゃるのですが、現代の建築で既製品を使わなければいけないなかで、手触りのある空気は残したいなと思うんです。暮らしの提案として、敷物とか大量生産ではない手作りのものを使ってもらいたいですね。華美なものでなくてもよくて、長く使ってもらいたい。家自体もそうです。
第1回から4回目まで作り手の方と対談させていただいて、今回山本さんから配り手としてのお話を聞かせていただき、作り手から配り手へと繋がっていって、うれしいですね。丹下さんが関係性を繋いでくださって、作り手だけではなく、配り手や使い手がいる面白さが感じられました。
第1回から4回目まで作り手の方と対談させていただいて、今回山本さんから配り手としてのお話を聞かせていただき、作り手から配り手へと繋がっていって、うれしいですね。丹下さんが関係性を繋いでくださって、作り手だけではなく、配り手や使い手がいる面白さが感じられました。
山本
作り手や使い手が「融民藝店に来れば何かに出会える」と思える、そういう場所にしたいと思います。先日も、いかごの須浪さんが店に来られていて、県外から来たお客様が「あ、須浪さんだ!」と喜ばれていました。須浪さんも顔ばれするぐらいになったんだなと思って(笑)。思いがけず作り手さんに会えるというのもお店という場所ならではだと思いますし、繋がりを生んでいく場所としての意味は考え続けたいですね。
作り手も高齢化が進んでいます。使いたい、お店を始めたいという人が増えるのももちろん良いのですが、「作りたい」という人がもっと増えてほしいです。
作り手も高齢化が進んでいます。使いたい、お店を始めたいという人が増えるのももちろん良いのですが、「作りたい」という人がもっと増えてほしいです。
中川
すでに作り手として活動している人も、もっと探していこうと思われていますか?
山本
どこかに弟子で入って卒業するという形がほとんどなくなっているので、いかにして良い作り手を探すかは今後の課題でしょう。今は新く始める作り手さんより新く始めるお店の数の方が多いといえる状況ですから、窯で修業して独立する作り手さんたちに店の人たちが目を付けて、いきなり声がかかる状況だと思うので、そこは気をつけて見ていないといけないですね。
中川
建築も同じですね。大工のなり手がいなくて、職人さん不足でどうなるかという状況で、業界自体の簡素化が進んでいます。
山本
僕もいずれ店を離れるときが来ます。そのときにどうあるのかをイメージし、次の人に何を渡すかを考えておかなければなりません。引き継ぎの準備期間は短かったのですが、一つよかったことは、店を始める準備と同時に、融子さんたちの店じまいの準備も一緒に経験できたことです。融子さんたちは「もの」が好きなので思い入れも強く、品物を整理するのが結構大変そうでした。だからこそ長く続いたのかなとも思いますけどね。
【つづきます】
民藝とは
「民藝」とは「民衆的工藝」のことで、大正時代末期に思想家・柳宗悦(やなぎ むねよし)らによって提唱された。芸術家が作る鑑賞するための美術品ではなく、名もなき作り手による、機能的な美しさを備えた日々の暮らしのための器や道具のことを指す。民藝の品を保存し、普及、発展させる民藝運動が全国に広まり、各地の民藝館を拠点に現代に受け継がれている。
いかごの須浪さん
イ草の端材を使って織り機で作る籠「いかご」。その技術を祖母から受け継ぎ、制作を続けるのが須浪隆貴氏だ。須浪亨商店の名で販売されるいかごは、ナチュラルなデザインや風合いが人気となり、愛用するファンが増えている。『民藝を訪ねて』シリーズ第4回で紹介している。