民藝を訪ねて
第四回 須浪亨商店
須浪亨商店
須浪 隆貴
SUNAMI Ryuki
須浪亨商店 須浪直樹
対談
プロフィール
おかやま住宅工房 中川大
おかやま住宅工房
中川 大
NAKAGAWA Futoshi

気負わず作り続けるデジタル世代の民藝

中川
中川 須浪さんと同世代で、こういう伝統的なものを創作している方も多いと思うんですけど、須浪さんの世代の方はその世界にグッと入り込むというより、軽やかな方が多いんじゃないですか?
須浪
須浪 僕は家業だからかもしれないけど、ものづくりがしたい人とか、作家を志している人とは、ちょっと違うんですよ。それは僕のコンプレックスでもあるんですけど、僕には、作家のような「こういうものが作りたい。」という強い思いはあまりないんです。
そういう人間に何ができるかというと、今まで積み重ねられてきた伝統や工芸的なものを受け継いで作っていくことと、地方で受け継がれてきた技術を集約して、「洗練された美的表現ではない方法で表現する」という方向性でものを作っていくしか、やれることがないなあと思っています。この先何かやりたいと思うことが出てくるのかもしれないし、それはそれで勉強になるとは思います。
中川
中川 同世代の人で、一つの世界に深く入り込む作家さんのような方もいるわけですね。
須浪
須浪 そういう方の方が多いし、活躍もされているみたいですね。そこは僕のコンプレックスで、うらやましいなと思う部分でもあって、なんとも言い表せない気持ちなんですが、自分は自分の仕事をすればいいかなと思っています。
中川
中川 淡々と、できることをきっちりとやっていくということでしょうか。
須浪
須浪 そうですね。それと、僕たちは、デジタルネイティブとまでは言えないけど、籠を作り始めた段階で、ある程度インスタグラムとかSNSがあった世代なので、作ったものをどう見せるかは気をつけなければいけないと思っています。でも、性格がまめではないので、あまり徹底してできてはいないんですけど、お店の方とか商品を買ってくれた方がSNSで紹介してくれていて、ありがたいです。
中川
中川 今の時代は周りが宣伝してくれて、ものが良ければ広がっていく時代ですよね。僕ら住宅工務店も手仕事が多い世界なので、手仕事の作り手さんが作ったものを生活に取り入れる提案ができたらいいなと思っているんです。だから、手仕事でコツコツやるという話を聞くと安心するんですよ。これからのことはどのように考えていますか?
須浪
須浪 この先どうするかは分かりませんが、イ草の仕事は結構分業なので、やる事が増えてくると手伝いの人をお願いしないといけなくなると思います。イ草を育てる方がいて、縄をなう方がいて、その方たちがやめたら僕が縄を作らないといけないです。そうなったら倉敷本染手織研究所のようなシステムにするのか、従業員として雇うのか。先のことはわからないですけどね。
中川
中川 イ草を育ててみたいと言われていましたよね。
須浪
須浪 育ててみたいですね。僕、あまりお米を食べないので、今お米を作っている場所でイ草を作ってみたいです。うちだけでも、昔はこの周りで何町か作っていたようで、そのイ草で明治の終わりぐらいから昭和の初めにかけて畳表や花ござを作っていました。
中川
中川 なくなった技術を復刻して、イ草も自分で作ってみるというのも面白いかもしれませんね。
須浪
須浪 やるとなると大変でしょうね。当分はこのスタイルでやっていこうと思っています。僕の場合は畳表に使えない短いイ草を買っているんですが、急にそれをやめるとイ草農家さんも困るじゃないですか。例えば、竹の万漁籠(ばんりょうかご)は漁師町の籠なんですが、高度経済成長期まではたくさん作っていたのに、代替素材のプラスチックが出てきて注文がゼロになって、廃れそうになった歴史があるんです。今、籠の材料として作ってもらっているイ草も買いつつ、何か復刻できる方法を考えていければいいなと思うんですけど。
中川
中川 畳表に使えない短いイ草を使うというのは、SDGsの一つみたいですよね。
須浪
須浪 ああ、その関連取材も2件ぐらい来ましたね。籠の生まれたルーツも、使わない材料を活用することなので。
中川
中川 端材の再利用は手仕事の一つの方法ですよね。倉敷本染手織研究所のノッティングは、布を織る時に残ってしまう端の短い糸で作りますよね。本来の仕事は布を織ることなんだけど、残り糸を使ったノッティングが注目されていると言われていました。ところで、須浪さんのような仕事は生活に溶け込んでいるような部分があると思うんですが、「作り手としての自分」と「生活者としての自分」と、どういうふうにバランスをとって仕事に生かしているんですか?
須浪
須浪 河井寛次郎みたいに「暮らしが仕事」とは言えないですけど、生活と仕事に垣根はないですね。晩御飯を食べた後に集中して仕事や自分のやりたいことを朝方までやって、寝て、昼前に起きだしてくる。昼間は仕事をしている日もあったり、本読んでいる時もあったり。
やっと12月は仕事が落ち着いたので、2月ぐらいまではペースを落としているかもしれない。籠は春夏がよく売れるので、2月ぐらいから猛烈に働き出すんです。今年は個人の展示会があって、わりと遅い時期までバタバタしていたんですけど、例年だと10月ぐらいで仕事が落ち着いて納品が減るので、やりたかったこととか、草刈りとかしています。友達が来て結構長い時間話したりもしていますし。
中川
中川 生活と仕事が一つになっていますね。ここで籠を編んでいるとは、道行く人にはわからないでしょう。いい感じに須浪さんのペースで取り組まれている。それにしても、晩御飯を食べた後から朝方までとは、ずいぶん夜型ですね。
須浪
須浪 イ草って日に焼けるので、色を揃えて注文分だけを作って卸すんですよ。基本的に在庫は持たないんです。ひと月分の縄を織り機にセットして、色を揃えて作る。縄が焼けないように暗い所で編むんです。
中川
中川 なるほど、商品として収めるには、それなりの苦労が伴いますね。材料の仕入れなども気をつかわれるんじゃないですか?
須浪
須浪 熊本や岡山などの、畳表に使えない短いイ草のほとんどを譲っていただいてます。多くが畳表の産地である熊本のイ草です。産地が岡山から熊本に移りましたからね。熊本がイ草の産地になったのは、イ草製品を機械で作るようになったあとなので、熊本にはイ草を使った手仕事の文化があまりないんですよ。
中川
中川 これからは、すごいことをするぞ、というのではなく、今までやってきたことをコツコツと続けていこうという感じですか?
須浪
須浪 そうですね。大きな目標はないので、こういう取材の時に困るんですけど(笑)。
中川
中川 それが一番長続きする秘訣だと思いますよ。改良するべき所は改良していかれるでしょうし。お会いする前は、勝手なイメージで年配の熟練された方を想像していたので、こんなに若い方が作られていたとは、びっくりしました。作っている所が見られてよかったです。「もっとこの籠、使ってよ。」とみんなに言いたくなりますね。今日はどうもありがとうございました。

SDGs(エスディージーズ)
2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発のための国際目標」のことで、Sustainable Development Goalsの頭文字と最後のSを組み合わせた言葉。産業、環境、教育、資源、福祉など、あらゆる分野の改善に地球的規模で取り組むための行動指針が示されている。
倉敷ノッティング
倉敷本染手織研究所で布を織る際に出る残糸で作られた敷物。羊毛糸の織物で、縦糸に糸束を結びつけることからノッティングと呼ばれる。幾何学的かつシンプルな柄で織られているため、生活の場がすっきりとまとまり、飽きがこない。丈夫なため、椅子敷きやフロアの敷物として長く使われる。倉敷民藝館・初代館長である外村吉之介氏が考案した柄が受け継がれている。
河井寛次郎(かわい かんじろう 1890~1966年)
柳宗悦や濱田庄司らと共に民藝運動をリードした日本の陶芸家。陶芸のほかに、書や彫刻、随筆などでも作品を残した。「暮しが仕事 仕事が暮し」など、民藝への思いを表す言葉を数多く残している。

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